1.歯科医師、歯科診療所の減少
1980年代から歯科医師の数は増加を続けて来ました。これは、1970年代に歯科医師不足が叫ばれ、全国の大学に次々と歯学部が開設されたことによります。
また、当時の歯学部入試では多くの大学で、入学定員を超えて入学させることが常態化していました。その結果、歯科医師数は40年以上増加を続けて来ました。
しかし、増加一色だった歯科医師数も、2022年についに減少に転じました。
歯科医師数の減少は、今後も続くと考えられています。歯科医師数の減少に先駆け、既に2017年をピークに歯科診療所は減少しています。厚生労働省の調査によればすでにピーク時から歯科診療所は約1700施設の減少となっています。
歯科医師数が減少に転じた結果、「近い将来、歯科医師は不足する」という考えが広がってきました。「今後、歯科医師が不足する」理由として「歯科医師数の減少」を挙げましたが、これを6つの視点から解説していきます。
2.歯科医師国家試験合格者数の絞り込み
歯学部在籍の皆さんや、歯学部生の親御さんなら十分に分かっていることだと思いますが、2000年に行われた第93回歯科医師国家試験から合格率が上下しだし、2008年の第101回歯科医師国家試験以降は、歯科医師国家試験の合格率は、ほぼ60%台で推移してきました。
2001年の第94回歯科医師国家試験の合格者数は3000人を超える、3125人でしたが、2014年の第107回歯科医師国家試験から、「歯科医師国家試験の合格者数は、2000人で線引きされている」と言える状況が続いています。
新たに歯科医師となる人数が1000人程度、減らされている状況です。
歯科医師国家試験合格者推移
回 | 施行年 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
第90回 | 1997年(平成9年) | 3,083人 | 2,710人 | 87.9% |
第91回 | 1998年(平成10年) | 3,017人 | 2,655人 | 88.0% |
第92回 | 1999年(平成11年) | 3,056人 | 2,554人 | 83.6% |
第93回 | 2000年(平成12年) | 3,014人 | 2,102人 | 69.7% |
第94回 | 2001年(平成13年) | 3,446人 | 3,125人 | 90.7% |
第95回 | 2002年(平成14年) | 2,956人 | 2,462人 | 83.3% |
第96回 | 2003年(平成15年) | 3,208人 | 2,932人 | 91.4% |
第97回 | 2004年(平成16年) | 2,960人 | 2,197人 | 74.2% |
第98回 | 2005年(平成17年) | 3,343人 | 2,493人 | 74.6% |
第99回 | 2006年(平成18年) | 3,308人 | 2,673人 | 80.8% |
第100回 | 2007年(平成19年) | 3,200人 | 2,375人 | 74.2% |
第101回 | 2008年(平成20年) | 3,295人 | 2,269人 | 68.9% |
第102回 | 2009年(平成21年) | 3,531人 | 2,383人 | 67.5% |
第103回 | 2010年(平成22年) | 3,465人 | 2,408人 | 69.5% |
第104回 | 2011年(平成23年) | 3,378人 | 2,400人 | 71.0% |
第105回 | 2012年(平成24年) | 3,326人 | 2,364人 | 71.1% |
第106回 | 2013年(平成25年) | 3,221人 | 2,366人 | 71.2% |
第107回 | 2014年(平成26年) | 3,200人 | 2,025人 | 63.3% |
第108回 | 2015年(平成27年) | 3,138人 | 2,003人 | 63.8% |
第109回 | 2016年(平成28年) | 3,103人 | 1,973人 | 63.6% |
第110回 | 2017年(平成29年) | 3,049人 | 1,983人 | 65.0% |
第111回 | 2018年(平成30年) | 3,159人 | 2,039人 | 64.5% |
第112回 | 2019年(平成31年) | 3,232人 | 2,059人 | 63.7% |
第113回 | 2020年(令和2年) | 3,211人 | 2,107人 | 65.6% |
第114回 | 2021年(令和3年) | 3,284人 | 2,123人 | 64.6% |
第115回 | 2022年(令和4年) | 3,198人 | 1,969人 | 61.6% |
第116回 | 2023年(令和5年) | 3,157人 | 2,006人 | 63.5% |
第117回 | 2024年(令和6年) | 3,117人 | 2,060人 | 66.1% |
この結果、現在では若手の歯科医師が少なく、当然待遇も上昇傾向にあります。
医業コンサルタントのコメントで、「研修終了1年目の待遇は数年前まで月額25万円程度だったのが、今は40万円、50万円のところもある」というコメントがありました。「勤務5年目で年収1200万円」というコメントもありました。
3.歯科医師、女性比率の上昇
大学歯学部への入学者のうち女性比率が高まっているのは、歯学部在学の皆さんなら分かっていることだと思います。最近では、入学者の半数以上が女性の私立歯学部も珍しくありません。
現在の歯科医師全体の女性比率は26.0%ですが、30歳から39歳では37.7%、29歳以下の歯科医師では女性比率は48.7%と、ほぼ半数の歯科医師が女性となっています。
女性歯科医師が結婚、出産を迎えると、現在でも歯科医師の仕事を続けることは簡単ではありません。まだまだ日本社会では夫婦のうち、女性が家事や育児を担うことが多く、結婚や出産を機に歯科医師として働くことを断念する女性歯科医師は少なくありません。歯科医師に復帰するとしても、フルタイムで働くことは難しいのが現状です。
このことも、「歯科医師不足」の一因と言われています。
4.引退間近の歯科医師が多い
2022年12月31日現在で、病院・診療所で働く歯科医師は101,919人です。これを年代別に見ると、70歳以上の歯科医師は12,833人で全体の12.6%となっています。また、60歳から69歳の歯科医師は、23,566人で全体の23.1%を占めています。60歳以上の歯科医師が歯科医師全体の35.7%を占めていて、この年代の歯科医師は、そう長くは歯科医師として働くのは難しいでしょう。
歯科医師の3分の1以上が60歳を超えていることから、「歯科医院の大量閉院時代到来」とも言われています。
病院・診療所で働く歯科医師の平均年齢は、なんと53.0歳です。歯科医師全体としても高齢化が進んでいると言っていいでしょう。
現在、歯学部に在籍している歯学部生が卒業して多少、歯科医師としての経験を積んだ頃には、歯科医師の大量引退があると予想されます。「コンビニより多い」と揶揄される歯科医院も、そういうような言われ方は近い将来、されなくなるでしょう。
5.歯科医院の後継者、「不明」と「予定なし」が約90%
日本歯科総合研究機構が、歯科医院管理者に対して「将来の後継者」について尋ねた2020年の調査によると、歯科医院の将来の後継者について「不明」が36.0%、「予定なし」と答えた歯科医師が52.5%でした。
調査対象となった歯科医院管理者の中には、若い歯科医師もいますが50歳以上の歯科医師が76.2%で、近い将来の後継者がいない歯科医院が非常に多いことが明らかです。
「不明」と答えた歯科医師は後継者を探しているのだと思いますが、「予定なし」と答えた歯科医師は、自分の引退と同時に歯科医院も閉院するつもりだと思われます。
ここからも、歯学部在籍の皆さんが歯科医師として活躍する頃には、かなり歯科医師を取り巻く状況は変わっていると考えていいでしょう。
6.在宅歯科医療需要の増加
日本は超高齢社会に突き進んでいます。歯科医療を必要とする高齢者の中には、地域的な問題や自身の健康状態などから、歯科医院に通院することが難しい高齢者もいます。日本の高齢化が進めば進むほど、歯科医療を必要としているものの通院が困難な高齢者が増加していきます。
日本歯科総合研究機構による、歯科医院に通えない要介護者への在宅訪問医療の充足率調査によれば、在宅訪問医療の充足率はわずか9.9%と1割に満たない状況です。高齢者の増加に訪問歯科診療が追い付いていないのが現状です。
高齢者がますます増える中、歯科医師への在宅訪問診療の需要は増えます。今後、歯科医師はこういった要望に応えていかなければなりません。歯科医師の仕事は、今後確実に増えていきます。
7.無歯科医地区の存在
2023年7月に厚生労働省から発表された「令和4年度無医地区等及び無歯科医地区等調査の結果」では、「無歯科医地区数は、前回調査(令和元年)に比べて7地区増加の784地区となっている。また、無歯科医地区人口は、前回調査に比べて「10,184人増加の188,647人となっている」としています。
歯科医師のいない地区が増加し、そこに住む住人の人数も増加しています。歯科医師を待っている地区が増えています。都市部の歯科医師は充足されていますが、歯科医師のいない地区は増えています。地域によっては歯科医師が不在で、歯科医師を切実に望んでいる地区もあります。
「歯科医師がいない」、このような地区があることを理解出来れば、「歯科医師は大変やりがいのある仕事だ」ということも分かると思います。
なお、「無医地区」は減少しています。
8.まとめ
歯学部在籍の皆さんが将来、歯科医師となるころには、歯科医師を取り巻く状況は変わっています。これまで述べてきた要因から、「将来、歯科医師が不足する」という考えが広まりつつあります。
歯科医師の仕事も「補綴・保存」に加え、最近では「矯正歯科」、「審美歯科」、「口腔外科」、「マタニティ歯科」、「訪問歯科」など、様々な領域で広がりを見せています。
歯科医師は望まれる職業であり、収入などの面でも期待の高い職業です。
「女性は男性に比べ手が小さく、狭い口の中で細かな作業がしやすい」、「それほど大きな体力を必要としない」、「小さい子供などに怖がられにくい」など、女性であることがデメリットにならない、むしろメリットになりえる職業です。
さらに、家事や育児などをこなしつつ、都合のいい時間で働くことも出来る職業で女性にも向いている職業と言えます。
歯学部の勉強は大変かもしれませんが、皆さんには明るい未来が待っています。
「歯科医師になって、自分の人生をしっかり生きるんだ」という強い気持ちを持って歯学部の勉強に取り組んでください。
歯学部で留年する学生の中には、「歯科医師になる!」という強い気持ちに欠けている学生も少なくありません。明るい未来が待っていますので、歯学部で留年している場合ではありません。歯学部進級、そして卒業、歯科医師国家試験合格に向けて頑張って下さい。
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